今日は私の三つの専門領域のうちの一つ、組織文化について考えてみたいと思います。「組織文化」と聞いて、みなさんどんなイメージを持ちますか?「文化」だけだと、日本の文化、欧米の文化など大きな話にもなりますが、私が取り扱っているのは、国や地域の話ではありません。ですが、例えメンバーが二人であっても組織ですし、百人、千人といった数であっても、「組織」というくくりの中にある文化について話していきたいと思います。
私は今いろいろな仕事をしていますが、「組織文化」の側面でいうと、ある組織の組織文化を良くするとか、その組織の理想の形に持っていく仕事をしています。立場的にはCCO(Chief Culture Officer)というような役割で組織に携わっています。ある種、外部の人間として入っていくわけですけど、そこにいる人たちが大切にしている価値観とか、良しとされていることは何なのか、ということを見極めたり、向かいたい方向を定めて、そこに対する良し悪しの基準を整えていくお手伝いをしています。
どんな組織でも「自分たちの組織はまだまだ成長する」「今もいいけどさらに良くなる」と考えているのなら、現状をちゃんと把握し、向かいたいゴールをしっかり定めます。組織の中には、その人たちが無意識的に感じている雰囲気や曖昧なルールがあり、それが実は組織文化に紐づています。私がやることは、それを言語化し、そこにいる人の認識を揃えることです。
例えば、この間もある組織の幹部の方々に、「普段思っているけど実は口に出していない組織の違和感などないですか?」という問いかけをしました。改めて立ち止まって考えると「実は本音で話せていない」とか、「実はみんなフラットと言いながら、かなりのヒエラルキーがある」とか、「作り笑いが多い」とか、結構出てくるわけです。一方で、「本当は心の中で信頼しあっている」とか、「もっとみんなと話したいけど恥ずかしい」とかポジティブなことも出てきます。
こういった普段言語化しないようなことをあえて言語化しますが、実はそういった言語化されない雰囲気が、その組織にいる人の日々の行動をコントロールしているんですね。心の中では、お互い本音を言っていないなと思っているから、個別に話したり、詮索したり、マウントを取ったりということが始まります。極端にいうと、これは無駄な作業です。
組織論で有名なロバート・キーガンはこう言います。「人は組織に入るともう一つの仕事をやる。自分の弱さを隠し、自分をよく見せようとしたり、人を攻撃したりする。」多くの人はこの時間に多大な労力をかけるわけです。だから私は、実はみんなが心の中で思っている、もっとこうなればいいのにという気持ちを言語化し、自分を取り繕うことなく、さらけ出し合える組織になるよう推進していくということをやっています。
ある企業では、私が関わってすぐの初期段階で感じたことを率直に伝えました。「みなさんすごくいい雰囲気に見えますが、実は真剣に向き合わなければいけないとき、笑ってごまかしますよね。大事な課題に向き合っているときも、笑って茶化して終わりますよね。」このようなことを伝えたら、かなり嫌悪感を持って否定されましたが、その反応を見て、これは当たっているなと思ったんですね。誰かに言われて心がザワつくようなことや、強く反応してしまうことには、そこに組織文化の肝があると思っています。そういったところを見抜き、そこを和らげていくということが私の大事な仕事だと思っています。
また、別の組織でこんなこともありました。その組織の期初に、トップの方が「今年のテーマは『感動』にしたい。今年はさらに人を感動させる組織にしたい」とメッセージを発信したんですが、その枕詞として「みんなからすると気恥ずかしいかもしれないけど」というような一言を付け加えたんですね。大事にしたい言葉にも関わらず、その言葉を発信するにはまだまだ照れがある、そこにその組織の組織文化が隠れているんだと思いました。そのあと、私からのメッセージではその点を強調し、「トップの人だけでなく、組織のみんなが、この大事な言葉を発するのに気恥ずかしいだなんて思わず、本気で言えるような組織文化にしていきましょう」と伝えました。
みなさんの組織にはどんな文化があるのでしょうか?ちょっと立ち止まって、自分の組織の文化を言語化してみてください。またどこかでこの組織文化の話はしたいと思います。では、今日も一日頑張りましょう!