チームメンバーを動かすために、リーダーは指示を出すべきだという考えに囚われていたところがありました。しかし、今は彼らのモチベーションをより深く考えるようになっています。
トレーニングが始まったとき、得られる情報や知識はできるだけチームメンバーに共有し、その上で、リーダーとしてチームが進むべき方向を示していました。プロセスを説明する中で、当然「なぜ?」という疑問がチームメンバーから出てくる。それにはできるだけ答えていたし、私が気づいていなかったことがあれば方向性に反映していました。今もそこは変わりません。
しかし、Teambox LEAGUEに参加してチームメンバーと深く対話する機会を作って感じたのは、私がそれぞれのモチベーションをあまり考慮していなかったことでした。「べき論」だけ提示して、メンバーのやる気や忙しさを度外視してしまっていたんです。つまり、私が課長として方向を示したあと、それぞれがどう取り組んでいくかという戦術を一緒に考えるプロセスをすっ飛ばしていた。振り返ってみると、メンバーは「面白そうですね」で終わっていることが多かった気がします。
自分が戦術を全部提示してしまうとチームメンバーの考えが停止してしまうので、折り合いは難しいですよ。その辺りの出し具合は、まだこれからも考えていかなければいけないところですね。
Teambox LEAGUEというトレーニングは、間違いなくグローストレーナー(以下、GT)との1on1がハイライトだと思っています。
参加リーダー同士でディスカッションする集合トレーニングもありましたが、1on1はより具体的で現実的な話ができました。リーダー同士だとお互いに悩みながらやっているので、ツッコミがそれほどキツくならない気がします。
それに対して、GTはツッコミ専門なんですよね。私は芝野GTに担当してもらいましたが、彼は特にそうでした。
例えば、私が育成に課題を感じているAさんがいるとして、Aさんについてこういう方向で伸ばしていきたいと言ったとき、芝野GTは「うんうん、いいですね」とうなずいてじっくり聞いてくれます。そして最後にぽつっと「それはいいかもしれないけど、野中さんは本当にそれでいいと思ってるの?」って聞いてくるんですよ(笑)。そうすると、「本当にそれでいいのかな?」という自問自答が始まって、さらに深く考えて別のアプローチを思いつくことがある。「本当に?」というシンプルな問いかけが一番印象に残っています。
もう一つあります。私が「Aさんはこう考えていて、こうやろうとしているんですよ」と言うと、芝野GTに「野中さんは相手の意図を汲んで推測しているみたいけど、それを言葉にしてちゃんと相手に伝えていますか?」って聞かれたんです。「仮に当たっていたとしても、口にすることで、相手がより野中さんが考えていることがわかるんじゃないですか?」と言われて、確かに相手の傾向から推測して、それで終わりにしているなと気づきました。「私はこう考えているけど、あなたはどう考えているの?」という問いかけがあまりなかったんですね。
いつも一緒に仕事をしていると、行動や思考のパターンがわかるので思い込みができてしまいます。チームメンバーとの対話の中でそこに気づきました。
まずはこちらから自分の考えを率直に言葉にすることによって、相手も本音をさらけ出して「自分はこう考えているんですけど、実は〜」と話してくれるようになりました。建設的な回答が返ってくることが増えたと思います。チームメンバーが自分で言葉にすることで、より良い方向に言動が変わっていきました。
結局はリーダーからのアクションが大事なんですよね。スポーツチームでも、選手は変わらないのに監督が変わるとチームの成績が変わることがある。これってなんでだろうと思っていたんですが、リーダーである監督から選手へのアプローチの仕方が違うんだと思います。まずはリーダーが自分の考えを率直に伝えて相手の本音を引き出せれば、それぞれのメンバーの思いを正すことも、引っ張り上げることもできる。チームボックスが言っている「いつでもどこでも誰とでも活躍できるリーダー」というのは、そういうことができるリーダーだと思っています。
リーダーなら自分の組織が扱っていることをすべて知っておかなければいけない、ということはでないと思うようになりました。
知らないことがあってもいい。その代わり、知らないことは常に質問し続けて、みんなが「こういうものだから」と流してしまうところにメスを入れる勇気を持つこと。客観的に物事を捉えられることがリーダーには重要なんです。知らないことをさらけ出して、蓋をしてしまいがちなことを明るみに出して、より良い方向に持っていけるのが本当のリーダーだと思います。
組織の中間にいて一番現場に近い課長は、意思決定のために現場の意見を吸い上げて経営にぶつけています。まずそういう人たちが変わらないと、会社は変わらない。
伊藤忠丸紅鉄鋼は風通しがいいと言われています。「何でも言える」という意味ですが、もしその「何でも」がいいことだけなのであれば不十分です。わからないことをさらけ出すことができて初めて風通しがいいと言えるはずです。
ここには優秀な課長がたくさんいますが、あえて弱い部分を言葉にできる組織文化があれば、伊藤忠丸紅鉄鋼はもっと強くなれると思います。流通業界は弱肉強食で厳しい業界。弱みを見せるとやられると言われていますが、だからこそ、社内では率直に自分の知らないことやできないことを語れるようになると、補い合ってより強くなれるのではないかと思います。そのためには、さらけ出せる組織文化が必要です。
リーダーみんなで一緒に伊藤忠丸紅鉄鋼を変えていきたいという言葉には、そういう思いを込めました。