Special Interview Vol.3 チームボックス中竹竜二 株式会社西武ライオンズ 飯田 光男 氏 Special Interview Vol.3 チームボックス中竹竜二 株式会社西武ライオンズ 飯田 光男 氏
学びを分かち合える集団へ。
チームボックスと共に、勝利を極める、
そして野球界の発展を目指したい。

【Special Interview#3】
株式会社西武ライオンズ 飯田 光男 氏

プロ野球チーム「埼玉西武ライオンズ」とその本拠地「ベルーナドーム」(埼玉県所沢市)を運営している株式会社西武ライオンズ。2019年より、球団の指導者育成改革の手段としてチームボックスの長期伴走型トレーニングを毎年導入いただいています。人材育成・開発を手がける会社は数多ある中、継続的にチームボックスのトレーニングを選んでいる理由は何でしょうか。トレーニングにより組織と指導者に起きた変化や、球団を支える人材の育成にかける想いなどについて、同社常務取締役球団本部長の飯田光男氏に語っていただきました。聞き手は、株式会社チームボックス代表・中竹竜二です。

Profile

株式会社西武ライオンズ 飯田 光男 氏
株式会社西武ライオンズ 常務取締役 球団本部長
飯田 光男 氏
1989年に西武鉄道株式会社へ入社。2015年に株式会社西武ライオンズに出向、取締役。2017年から常務取締役。2019年から常務取締役球団本部長に就任。
株式会社チームボックス 代表取締役 中竹 竜二
株式会社チームボックス 代表取締役
中竹 竜二
1973年生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。株式会社三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。自律支援型の指導法で大学選手権二連覇。日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクター、U20日本代表ヘッドコーチを経て、日本代表ヘッドコーチ代行兼務。2018年(一社)スポーツコーチングJapan設立。著書『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』など多数。

一流のプレーヤーを生み出し、常勝軍団を目指す。
その手段として、“育成の力”が不可欠でした

中竹 竜二(以下、中竹):西武ライオンズさんとは2019年よりご縁をいただき、球団ファーム・育成グループの指導者育成に一緒に取り組んでまいりました。そもそも、なぜ「指導者育成」に着眼したのか。その経緯を教えてください。

飯田光男 球団本部長(以下、飯田):野球界は数ある競技の中でも歴史が長い背景から、「選手として活躍した人が、そのままコーチになる」という慣習が続いていました。しかしながら、名選手がすぐに名コーチになれるとは限りません。教育を十分に受けないまま選手育成の役割を担うことになったコーチたちが、「この方法でいいのだろうか」と悩んだり、コーチ自身の成長の壁に直面したりする課題があったと考えています。
 また、選手に目を向けたときには、昔と比べて突出した才能の選手が減っているという感覚があります。「一流のプレーヤーを生み出す手段として、“育成の力”がより重要になる。常勝軍団を目指すためには、選手を育てるコーチの強化が必須である」。そんな提案が現場から私のもとに上がってきたことが、取り組みのきっかけとなりました。

中竹:そういった機運が高まった中で、チームボックスを選んでいただいた理由はなんだったのでしょう?

飯田:人材育成・開発を手がける会社は数多ありますが、スポーツのプロチームは特殊な集団ですので、参加者が「腹落ち」できるかがポイントになると考えていました。その点、やはりスポーツ界の事情を熟知している中竹さんの存在が大きかったですね。

中竹:4年も継続いただいている理由はどこにありますか?

飯田:チームボックスさんは他の研修会社と全然違うんです。何が違うかというと、圧倒的に「一緒にやっている一体感」があること。「育成とはこうあるべきだ」と上から教えるのではなく、学びや気づきを共有しながら、同じ目線で一緒に成長できる環境を提供してくださる。初回のファミリーミーティング(※)が終わったときには、すごく心地よかったです。しかも、年々絆が深くなっている。
 コーチには職人気質のタイプも多く、はじめは半信半疑の雰囲気がありましたが、今では笑顔で楽しそうに参加している様子があちこちで見られますね。我々の文化として、学びの土壌が確実に上がっている実感があります。チームボックスさんは間違いなく素晴らしいパートナーです。

ファミリーミーティング=指導者育成プログラムに関わっているチームボックスの運営メンバーと組織側の関係者の皆さんとで、毎回集合トレーニングの終了後に行う進捗共有・振り返りミーティング

中竹:嬉しいですね。常日頃から、教える側も教わる側も同時に学べるのが「よい学び」の条件であると考えていますので。

飯田:私も西武グループ入社以来、研修は数多く受けてきましたけれど、ここまで一緒に学ぶ感覚を味わえる研修は初めてです。私自身も非常に刺激になりました。

組織全体に「コーチとしてやっていくなら学ばなければダメだ」という意識が広がってきた

中竹:この4年間で、指導者にどんな変化がありましたか?

飯田:まず1年目に見られたのは「会話量の変化」です。以前なら、誰かが報告して終わりだったミーティングの時間に、発言の量が増えたなという感覚がありました。
 それから段々と年を追うごとに、一人ひとりのコーチが自信を持って指導している姿や、「多少不安でも、できないなりにやってみよう」と挑戦を楽しむ姿も見られるようになりました。それぞれの個性が表現されるようになったというのでしょうか。指導者として一皮剥けたな、と感じる場面が増えましたね。
 最も成長を見せてくれたのは、松井稼頭央監督ではないでしょうか。研修の最後に聞かせてくれた素晴らしいスピーチには身内ながら感動しましたし、正直、驚きました。これまでは積極的に自ら話をするタイプではなかったですから。

中竹:「一流のプレーですべてを語る」スタイルで結果を出してきた方だからこそ、言葉に不慣れだっただけなのでしょう。最初は恥ずかしそうに見えましたが、回を重ねるごとにメッセージイングが磨かれていきましたね。我々の研修はかなり踏み込んだサポートをしますので、おそらく他のコーチの方々も最初はかなり抵抗があったと思います。でも、徐々に空気が変わっていった印象を受けたのですが、いかがでしょうか?

飯田:普段はあまり文字を書くことさえしないようなスタッフが多いですから(笑)、私も「本当にできるかな?」と心配ではありました。やったことがないことへの心理的ハードルは当然あったと思いますが、効果の実感を持てるから前向きに取り組めるのではないでしょうか。今では、組織全体に「コーチとしてやっていくなら学ばなければダメだ」という意識が広がっています。

中竹:たしかに、選手に負けないくらい切磋琢磨しようという気概が感じられますね。

飯田:一人ではなく、みんなで一緒に学んでいることの効果は高いと思います。いい意味で競争心をかき立てて、いい刺激になっているのでは。

中竹:技術で勝負するスポーツ界では「ノウハウは他人に漏らさない」といった風潮がありますが、今のライオンズさんには「いいものは共有し、お互いに学び合おう」という熱がありますね。

飯田:そのほうがチーム全体の力につながるし、結果的に自分に還ってくることがわかってきたのでしょうね。ノウハウは外に出したほうが格段に磨かれますし。不完全な部分も含めてさらけ出したほうが自分を成長させると、研修を通じて学んだ人は多いと思います。

中竹:私にとって非常に印象深かったのは、本部長としてリーダーシップをとる立場の飯田さん自身が「学ぶ姿勢」を見せていることです。オブザーバーとして参加しているはずなのに、ずっと熱心にメモを取っていましたよね。

飯田:必死に勉強しています(笑)。頭では分かっていても行動に移せていなかったことをこの機に反省しました。私自身も一段二段成長しないと、皆に抜かされるぞという危機感を持って必死に吸収しています。

中竹:その姿こそが文化ですよね。リーダーが自ら率先して学ぶ姿勢を見せるから、皆さんも素直に学びに向かうことができる。こうした文化の定着が、組織として一枚岩となる団結力にもつながっていきます。

チームビルディング研修で、「この仲間と一緒なら、なんでもやり遂げられる」と確信した。

中竹:これまで「7つの要素(※)」に沿ったコーチングスキルを育成するプログラムのほか、チームビルディングやマネジメントなど、組織力を高めるための研修にも取り組んでいただきました。これによる変化は見られましたか?

飯田:球団にとって「マネジメント」や「次世代リーダー育成」は長らく手をつけられていない課題でした。球団本部で働くメンバーは指導者よりもそれ以外のスタッフの人数が多いですし、チームボックスの研修によってこれだけ指導者が成長できたのだから、他のスタッフが学べる場もどんどんつくっていきたいという思いがあります。
 実際に研修に参加してもらうと、思った以上の変化がありましたね。普段は一人で淡々と仕事をしているファームスタッフが、集団となってチームビルディングのノウハウを注ぎ込まれると爆発的なエネルギーを発する。特にプロ野球出身者は野球一筋でやってきた人ばかりなので、新しい刺激を一つ与えるだけで、パッと火がつく燃焼力はあるのかもしれません。
 ものすごい熱気を感じながら、「この仲間と一緒なら、なんでもやり遂げられそうだ」という期待が高まりましたね。あらためて、人には無限の可能性があるのだと実感できました。

7つの要素:チームボックスが独自に定義した、コーチングスキルに必要な基本要素のこと

中竹:私も数多くの研修に立ち会ってきましたが、あれほど盛り上がる研修はなかなかないですよ。そしてこのときもまた、飯田さんが上手に巻き込まれていましたね。

飯田:見てるだけのつもりが「来てくださいよ」と言われて(笑)。すごく盛り上がって面白かったですし、何より私を巻き込んでくれたことが嬉しくて、管理者冥利に尽きます。あれはこの1年の中でも最も感動した瞬間の一つでした。

チームボックスはチームの一員となって「学びの文化」の畑を耕し、学びの種をたくさん蒔いてくれる存在

中竹:あらためて、我々が提供できている価値とは何でしょうか?

飯田:チームボックスさんの価値を一言で表すと、「チームを強くしてくれる存在」です。我々のチームの一員となって、「学びの文化」という畑を耕し、その畑に学びの種をたくさん蒔いてくれるのが、チームボックスさんです。
 「野球界には研修は合わない」と思い込んでいましたが、そんなことはない。年齢や経験、属性に関係なく、人は誰でも、いつからでも学べるし、成長できる。チームボックスさんには、組織の成長にとって最も大切なことを教えていただいたと思っています。

中竹:非常に嬉しいお言葉をありがとうございます。チームボックスのミッションは「大人が素直に学び合える場・社会をつくる」というものです。勝利や売り上げに直接貢献することはできませんが、そうした成果につながる組織づくりの種蒔きには、どこよりもこだわってきた自負があります。

飯田:私もこの齢になって管理職ともなると、学ぶ機会から遠ざかっていたのですが、チームボックスさんの研修を機に学ぶ楽しさを再発見し、最近は書店に立ち寄って「読むべき本はないかな」と探してみたりと、自分自身の意識に変化を感じています。久しぶりに気力に火がついたといいますか。私が一番楽しんでいるかもしれませんね。

目指すは「日本一の人材育成集団」
球団の枠を超えて、野球界、スポーツ界、社会に貢献したい

中竹:その気力が皆さんにも伝播して、貪欲に学んで楽しむ文化が着実に醸成されていると思います。今後の展望についてはいかがでしょうか?

飯田:指導者をはじめとする球団内の人材育成によって、常勝軍団再建を達成する。これが「第1フェーズ」としたら、その先にある「第2フェーズ」は球団の外まで飛び出す挑戦です。
「ライオンズなら最高の人材育成ができる」という評価をいただけるまでに力をつけて、プロ野球界、日本のスポーツ界、さらには世界のスポーツ界にまでインパクトを及ぼすような貢献をしていきたいですね。
 目指すは「日本一の人材育成集団」。あまりにも大きな夢ですし、乗り越えるべきハードルが無数にあることも分かっていますが、まずは数年単位では達成できないくらい壮大な夢のビジョンを描く第一歩が大事であることも、チームボックスさんの研修から学んだことです。

中竹:研修の中では「ムーンショット(※)」と呼んでいる長期目標設定ですね。素晴らしいビジョンだと思いますが、もともと温めていた目標だったのでしょうか?

飯田:いや、数年前まではこんなことは考えていなかったですよ。チームボックスさんの研修を通じて、自分の視座がどんどん高まっていき、こうした高い目標を言語化できるようになったんです。
 世間から「野球界は古い」とよく言われますが、その古い野球界を改革する担い手に、ぜひ我々がなっていきたいですね。今季の目標としては「常勝軍団再建」と「野球界のフロントランナー」を掲げました。じわじわとではなく、いきなりムーンショットの手前くらいを狙うつもりで、挑戦を加速していきたいと思っています。

ムーンショット:非常に困難だが、達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む挑戦・長期目標

中竹:大きな挑戦にはハードルがつきものですが。

飯田:当然、ハードルはあると思います。「そんなことして、売り上げにどうつながるの?」という批判も出てくるでしょう。しかしながら、何をもって成功とするかの正解はどこにもありません。我々は一つの企業体として利益を出す義務がありますが、社会全体に有益な価値を提供することも重要な役割だと私は考えています。
 子どもたちや若い選手たちが野球界・スポーツ界に夢を持てるような人材の育成というのは、その役割を果たすために不可欠な基盤になるはずです。

中竹:新たに導入検討をはじめたライオンズコーチングアカデミー(※)が、象徴的なアクションですね。

飯田:プロ野球界としては初めての試みとなりますし、我々にとっても大きなチャレンジです。主たる目的は当球団の「強さ」に直結するコーチのレベルを上げることですが、球団外にも活用いただけるように検討をしています。
 野球を続ける醍醐味は、何もプロを目指すことだけではありません。「かけがえのない仲間ができた」、「チームのために一生懸命取り組む面白さを知った」など、人生に本当に役立つ大事なことを野球はたくさん教えてくれます。真の意味で野球の価値を伝承できる人財(材)のプロを育成する仕組みを整えていくことが、将来にわたっての日本の野球文化の発展には不可欠だと考えています。
 今はまだ「何を言っているの?」という反応を受けそうですが、まずは球団、会社、野球界へと、徐々に巻き込んでいけたらと思っています。まだ漠然とした思いなのですが。

ライオンズコーチングアカデミー:西武ライオンズとチームボックスで作り上げる指導者向けのコーチングトレーニングプログラム。近い将来にプロ野球球団初の指導者ライセンス制度策定を目指している

中竹:後々語り継がれるようなインパクトの大きな改革であるほど、最初は言語化が難しく曖昧なものです。明確な言葉になっていなくても、自分の中では腹落ちしている。そんな直感に近い使命感はぜひ大事にしていただきたいです。ライオンズさんならではの夢の実現に向けて、どうか焦らず少しずつ文化をつくりあげていただきたいです。

飯田:その言葉を聞き、勇気づけられました。ありがとうございます。

中竹:こちらこそ励みになるお話をいただき、感謝しています。これからもチームの一員として我々も共に歩んでいきます。よろしくお願いします。

文/宮本恵理子

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