一人ひとりに染みついた特有の意識や行動パターンである組織文化は、形成や変革に時間を要します。しかし、行動の積み重ねと価値観浸透の日常的な反復で、根底にある「無意識のうちに当たり前になっている考え方」が改められ、文化は確実に変わります。
うまくいったやり方が組織内に蓄積、定着することで、特有の意識・行動が当たり前の習慣として行われた末、文化となります。
皆さんは、日本ではあまり見られない欧米人の振る舞いに、ハッとしたことがありませんか。例えば、通路の出入り口では、ごくふつうの人々が必ずドアを開けて待ち、後に続く人を当然の表情で通してくれます。
「お先にどうぞ」「有難う」と他人同士が心を通わせる異国の雑踏とは対照的に、鼻先でドアを閉じられることもある日本でのマナーの低さにすっかり慣れた自分が恥ずかしくなります。この行動の違いは、どこから生まれるのでしょうか?
こうしたマナーをはじめ、ある組織や集団、社会などの人々に共通する特有の意識や行動を、「文化」と言います。
始まりが偶然か意図的でも、その行動が「うまくいった」場合、次もその方法が選ばれます。その成功体験が蓄積し、次第にそのやり方が定着し、やがて意識することなく当たり前のようにそのやり方が行われ、文化になります。
人々の意識・行動パターンである組織文化を変えるには、一番深い層にある、無意識のうちに当たり前になっている考え方から改める必要があります。
エドガー・シャイン教授によれば「組織文化」とは、
1.人の行動などの「目に見える要素」、
2.共有される「価値観」
3.その組織の人々にとり、無意識のうちに「当たり前になっている考え方」
の3層の要素からなる、とモデルで解説されます。
例えば、交差点の赤信号を見たら、私たちは深く考えずに止まります。このように普段の行動の大部分は、熟慮することなく習慣的に行われます。この文化の深層にある、無意識にうちに当たり前になっている考え方(赤なら止まる)が、組織の人々の行動を一定の型にはめます。
そこで、文化をつくる(変える)には、行動の積み重ね(習慣化)と価値観浸透を反復継続し、最下層の「3. 無意識のうちに当たり前になっている考え方」の変化を図るのが定石です。しみついた癖を正すのには手間と時間はかかりますが、正しい習慣と考え方を身に着ける「しつけ」と見れば頷けます。
分かりやすい例が、「階段で手すりを持つ」ことです。それを習慣にし、「安全第一」の価値観を浸透させるうちに無意識の考え方が改まり、最後には手すりのない場所では不安な感覚が湧きます。(本当です)
習慣化の効果を身をもって実証したのが、メジャーリーグで大活躍した松井秀喜選手です。高校時代に野球部監督から教わった次の言葉を座右に、世界一まで登りつめたことを自著で明かします。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」(米国の哲学者のウィリアム・ジェームズの言葉)
いかがでしょうか? 意識や行動を変え、正しい習慣で人格や文化を高めることが、人や組織が成功する道であることは、洋の東西を問わぬ不変の真理のようですね。